余白が心を満たす。日本庭園から教わる、無理なく整う部屋の作り方
多忙な日常と、心休まる場所への願い
日々仕事に追われ、自宅が物で溢れてしまい、心からくつろげない場所になってしまったと感じている方は少なくないかもしれません。片付けや整理整頓をする時間を捻出することも難しく、ミニマルな暮らしや心豊かな生活に憧れつつも、どこから手を付けて良いか分からない、という状況にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような状況の中で、少しでも自宅を心安らぐ空間に変えたい、日々の忙しさから解放される時間を作りたい、という願いをお持ちの方へ、一つのヒントとして「日本庭園の美意識」を取り入れた空間づくりをご紹介いたします。特に、日本庭園が大切にする「間(ま)」や「余白(よはく)」の考え方は、現代の私たちの住まいにも多くの示唆を与えてくれます。
日本庭園が大切にする「間」と「余白」とは
日本庭園における「間」や「余白」は、単に何も置かれていない空間を指すのではありません。それは、石や植物といった要素の間に生まれる空間であり、その空間があることで、全体のバランスが保たれ、一つ一つの要素が持つ美しさが引き立ちます。また、見る者の想像力をかき立て、奥行きや広がりを感じさせるための重要な要素でもあります。
枯山水庭園に代表されるように、最小限の要素で雄大な自然を表現する際に、この「間」や「余白」の使い方が極めて重要になります。砂紋で水の流れを表現し、置かれた石は島や山を表す。その石の周りの「余白」こそが、海や川そのものを象徴するのです。このように、日本庭園の「間」や「余白」は、削ぎ落とした中に無限の広がりや静寂、そして深い精神性を感じさせる美意識に基づいています。
なぜ、現代の部屋に「余白」が必要なのでしょうか?
現代の私たちの住まいは、ともすれば物や情報で溢れがちです。視覚的な情報過多は、無意識のうちに心を疲れさせ、リラックスを妨げる要因となり得ます。日本庭園の思想にならって、意識的に部屋に「余白」を作ることは、単に物理的なスペースを確保するだけでなく、心にゆとりを生み出すことにつながります。
余白のある空間では、物が少なく整理されているため、視覚的なノイズが減り、心が落ち着きやすくなります。また、一つ一つの物がより際立って見えるため、お気に入りの物に愛着を感じたり、大切に扱おうという気持ちが生まれたりします。さらに、掃除や整理整頓の手間が軽減されるため、日々の負担が減り、忙しい方でも整った状態を維持しやすくなります。
多忙な毎日でも実践できる、部屋に「余白」を作る具体的な方法
日本庭園の「間」の思想をヒントに、多忙な日々の中でも無理なく部屋に「余白」を作るための具体的なステップをご紹介します。完璧なミニマリストを目指す必要はありません。できるところから、少しずつ試してみることが大切です。
ステップ1:視点を変える - 「詰める」から「引く」へ
日本庭園が周囲の景色を「借りる(借景)」ように、部屋の中の全てを自分のもので埋め尽くすのではなく、外部の要素や空間そのものを活かす視点を持つことから始めましょう。
- 外の景色を借景にする: 窓からの景色を意識し、その視界を遮らないように家具を配置する。外の緑や空、夜景なども、部屋の「借景」として空間に広がりと季節感を与えてくれます。
- 一度に完璧を目指さない: 家全体を一度に片付けようとせず、まずは窓辺や玄関、ベッドサイドのテーブルなど、小さな一角から「余白スペース」を作ってみましょう。そこに何も置かない、あるいは厳選したお気に入りの物だけを置くようにします。
ステップ2:物理的な「余白」を作る - モノとの向き合い方
物理的な「余白」は、心の「余白」に直結します。まずは、床やテーブルの上に何も置かれていないスペースを作ることを意識してみましょう。
- 「床置き」をなくす: 床に物が直置きされていると、それだけで空間が狭く見え、視覚的な圧迫感が生まれます。まずは床に置かれている物をなくし、床が見える面積を増やすことから始めます。
- 「何も置かない」場所を決める: 部屋の中に「この場所には何も置かない」と意識的に決めたスペースを作ります。例えば、棚の一段、カウンターの一角など。そのスペースが、視線を休ませ、心にゆとりをもたらすアンカーとなります。
- 「見て心が満たされるか」も基準に加える: 物を減らす際に、「使うか使わないか」だけでなく、「そこにあることで心が満たされるか」「見て美しいと感じるか」という日本庭園の鑑賞性にも通じる視点を加えてみましょう。厳選された美しい物は、少ない数でも空間を豊かにします。
ステップ3:空間的な「余白」を作る - 配置の工夫
家具の配置や照明も、空間に「間」や「余白」を生み出す重要な要素です。
- 家具と壁の間に「間」を作る: 全ての家具を壁にぴったりとつけず、ソファと壁の間など、少し隙間や「間」を空けることで、空間に奥行きが生まれます。
- 視線の「抜け」を作る: 背の高い家具ばかりでなく、視線が奥まで届くような、背の低い家具や何も置かない壁面を作ることで、圧迫感が軽減され、空間が広く感じられます。
- 照明で陰影を活かす: 日本庭園では、灯篭が夜の庭に陰影を作り出し、空間に奥行きや静寂をもたらします。部屋でも、全体を均一に明るくするだけでなく、間接照明などで影や陰影を作り出すことで、空間に表情が生まれ、落ち着いた雰囲気になります。
ステップ4:五感に「余白」を作る - 季節を取り込む
物理的な空間だけでなく、日々の生活に「余白」を作ることで、五感を通して季節や自然の変化を感じるゆとりが生まれます。
- 季節の小さな一枝を飾る: 多くの物を飾るのではなく、道端で見つけた美しい葉っぱや、一輪の花など、季節を象徴する小さな自然の要素を厳選して飾ります。それが、空間に季節の彩りを与え、心に潤いをもたらします。
- デジタルから離れる時間: スマートフォンやパソコンから意識的に離れ、静かな時間を持ちます。窓から差し込む光の移ろいを感じたり、お茶をゆっくり淹れたりする、そのような「何もしない時間」が、心に貴重な「余白」を生み出します。
「余白」がもたらす心の変化
部屋に「余白」を作る取り組みは、物理的な変化だけでなく、内面にも穏やかな変化をもたらします。物が整頓され、視覚的なノイズが減ることで、思考がクリアになり、集中力が高まるのを感じるかもしれません。また、心にゆとりが生まれることで、忙しい日々の中にも小さな喜びや季節の移ろいに気づきやすくなります。
日本庭園の「間」が空間に奥行きと静寂をもたらすように、私たちの部屋に「余白」を作ることは、心に落ち着きと安らぎをもたらします。それは、自分自身と静かに向き合う時間を与えてくれる大切な空間となるのです。
まとめ
多忙な毎日の中で、自宅を心休まる場所にするためには、完璧を目指すのではなく、日本庭園の「間」や「余白」の美意識をヒントに、無理なく物理的・精神的な「余白」を作ることが有効です。外の景色を借景にする、小さな一角から片付ける、床やテーブルに何も置かない場所を作る、家具の配置に間を設ける、季節の自然を少しだけ取り入れる、そして何より、何もしない静かな時間を作る。
これらの小さな一歩が、 cluttered な日常から解放され、心にゆとりをもたらし、住まいを通して四季の移ろいを感じる豊かな暮らしへとつながっていくはずです。「四季を感じる庭暮らし」では、これからも、皆様の暮らしがより豊かで心満たされるものになるようなヒントをお届けしてまいります。